最上敏樹さん『いま平和とは』を読んだ

岩波新書の記念すべき1000番
『いま平和とは −人権と人道をめぐる9話−』を読みました。


第1話から第9話まで、わかりやすい表現で、
かつ具体例で書かれていますので、とても読みやすかったです。


しかし、平和とは何なのか?平和をめざすにはどうしたらよいか?
など考えるヒントがいっぱい詰まっていて内容の濃い一冊でした。


特に印象に残ったのは、第5話「人道的介入」です。


まず問題提起があります。
どこかの国で、特定の集団を殺害するなどの人権侵害が起きている場合、
武力行使をしてでも、それをくい止めるるべきなのかどうか?
平和とは戦争をしないことなのか?
人権のためには、戦争も辞さないことなのか?


筆者は1999年の「ユーゴ空爆」を例に挙げます。
ユーゴスラビア(現セルビアモンテネグロ)で、
セルビア人がアルバニア人を迫害していることを理由に
NATO諸国が、コソヴォや首都ベオグラード空爆しました。


このとき2点が問題となったそうです。
1.迫害されているアルバニア人を救うことよりも、
 セルビア人権力の本拠地であるベオグラード空爆に力点がおかれたこと
2.安保理決議なしに空爆したことは合法なのか?


人道的介入をするに際して、
恣意的であってはいけない→そこに石油があるからなどの理由はダメ
懲罰的であってはいけない→被害者救済を最優先すべき
と筆者は言います。


そしてさらに、アフガニスタンで医療奉仕活動などをされている
中村哲さんの例をあげて市民的介入の重要性を提案されています。


すなわち人道的介入は、武力行使が唯一の手段ではない。
破局寸前の段階になる前に、人間同士が殺し合いをしなくてすむように
軍ではなく市民によって、事前にさまざまな手を打つこと(市民的介入)が、
まずは必要だということを提案されています。


→確かにその通りだと思います。
 「人道的支援」を理由とした武力行使といっても、石油の利権を奪うなど
 何らかの利益が絡んだ不純な動機が含まれる場合もあるだろうし、
 空爆するにしても、民間人の被害が100%無いという保証はどこにも無い。
 したがって、武力行使を極力しなくて済むように日頃からの努力が、
 国家レベル、市民レベルで必要だと思いました。



●第9話の最後に筆者からのメッセージがあります。
・平和についての理想は、いますぐ実現すべきだと考えなくてよい
・歴史的にみても、平和の実現は少しずつの成果の積み重ねをするしかないのが現実だ


→この部分は、とても勇気づけられるメッセージでした。
 平和について考えたときに、「自分の生きているうちに世界の平和は来ないだろう」と
 悲観的になりそうなったら、このメッセージを思い出したいと思います。