孫崎享さん『日米同盟の正体』を読んだ
著者の孫崎享(まごさきうける)さんは、
外務省にて大使や国際情報局長を歴任され、防衛大学の教授も務められた方。
それ故、「外交」と「軍事」両方の面から書かれている点が良かったです。
日本外交の問題点や、アメリカの安全保障戦略などを分析した上で、
最後に、これから日本が何をしていくべきかが提案されています。
第1章 戦略思考に弱い日本
第2章 21世紀の真珠湾攻撃
第3章 米国の新戦略と変わる日米関係
第4章 日本外交の変質
第5章 イラク戦争はなせ継続されたか
第6章 米国の新たな戦い
第7章 21世紀の核戦略
第8章 日本の進むべき道
●第1章「戦略思考に弱い日本」が一番インパクトありました。
1980年代から始まるアメリカの「シーレーン防衛構想」を例に挙げて説明されます。
「シーレーン防衛構想」とは、
第2次世界大戦以降、日本の軍国化を抑えようとしてきたアメリカが、
方針を変えて、日本に軍事力をつけさせようとした構想。
その一環として、日本にP-3C対潜水艦哨戒機(しょうかいき)を保有させた。
当時の日本人の理解としては、
石油を安定的に輸入するために海上輸送路を安全に確保する必要がある。
→ そのためには、ソ連の潜水艦の攻撃に備えるべき。
→ よって、P-3Cを大量に保有する必要がある。
といった理解だったそうです。
しかし、アメリカの思惑は、
日本にP-3Cを保有させて、オホーツク海のソ連海軍力を封じ込めることだった。
日本は、まんまとアメリカの軍事戦略に貢献させられたそうです。
この構図は、今日の「イラク戦争への協力」などにもつながっている。
このように日本人が戦略的思考に弱い原因は、日本は外国に占領されたことが、
ほとんどないから、「自分の国を自分たちで守らないと大変なことになる」
という発想があまりないからと分析されます。
実際、日本の大学で軍事戦略を教えている所はほとんどないそうです。
故に上兵は謀(はかりごと)を伐(う)つ。
その次は交(まじわり=同盟)を伐る。
その次は兵を伐つ。
その下(げ)は城を攻む。
『孫子』において最上の策は、敵の謀を見抜いて、それを封じること。
しかし、日本では山本五十六など、城を攻めて実績を残した人が多いそうです。
→『孫子』で言うように、事前に敵の策略を見抜いて阻止すれば、
戦争なんてしなくてすみます。とても賢い考えだと思います。
もっとも、戦略を学ぶことは、それを悪用してしまうから良くないこととも思えます。
しかし、相手の戦略も見抜けずに、自分たちが都合良く利用されるのも
単なる「お人よし」になってしまいます。
したがって、戦略を学ぶこと+絶対悪用しない自制心をつけること
をセットで考えていく必要があると思いました。
●巻末には、各章の参考文献が挙げられており、とても役立ちます。
さらに「スパイ小説」も5作品あが挙げられています。
一流のスパイ小説は、事前に関係者に取材をして、時流をしっかり把握しているので、
現代の動きを知るのにともて役にたつそうです。
ジョン・ル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』は、スパイ小説の最高傑作だそうなので、
読んでみたいと思います。