飯田哲也さんの話を聞いた

今年の2月、映画ミツバチの羽音と地球の回転を見ました。
その時の感想記事はこちら↓
http://d.hatena.ne.jp/sunahama385/20110223/1298461127

その中で自然エネルギーへの取り組みを前向き、かつ論理的に語る飯田さん。
一度、じっくりお話を聞いてみたいと思い、三重県での講演会に行ってきました。


  「3.11後の日本のエネルギー政策の方向性」
   〜第3の転換期・第4の革命〜
    2011年10月23日(日) 14:15〜16:30
    三重県人権センター 


 飯田さんのスタンスは、ある特定の立場に立って強力に主張するのではなく、長い目で見て、人にとって何が一番大切なのか?を考えて主張されているような印象でした。それに客観的なデータ使って説明されるので、とても説得力がありました。沢山いただいた情報のなかから、特に印象に残った点を以下に書いてみます。


1.2011年は第3の転換期
 日本の大きな転換期は3回あった。第一は、1868年明治維新。第二は1945年の敗戦。そして第三の転換期は、3.11を経験した2011年とのこと。
→確かに、東北の被災地の映像を見て、たいへんなことが起きていると感じましたし、原子力発電所が爆発する映像は、原爆を想像しました。これまで当たり前だと思っていた価値観(大きな津波は来ない。原発は絶対安全など)を見直して、前に進んでいく必要があると思いました。「2011年は、日本人にとって大変な打撃を受けた年だった。でも、そこから正しい方向を見据えて日本は立派に復興した。」と数十年後の人たちに言ってもらえるようにしていきたいです。 


2.原子力発電は市場の力によって退場させられつつある
 原子力発電は「コストが安い」というのがこれまでの常識(常識と思わされていた)。
 しかし、
・安全性を高めるために、炉を大きくするなどして建設費が増大。
フィンランドのオルキルオト3号機では、建設トラブルにより費用が増大。初期投資だけで14円/kw時になってしまっている。
・事故が起きた時のための損害賠償の保険額を計算すると、16円/kw時〜8,000/kw時にもなる
・ストレステストなど、規制がより厳しくなり運転していくのにもコストが増える
シティバンクは「新規原発への投資にエコノミストはノー」と言っている
ムーディーズは「新規原発を建設する電力会社の債権価格は25〜30%低落する」と言っている

などさまざな理由によって、もやは原子力発電は経済的でない。
→ここまでいろんな根拠を見れば、原発で儲けようとする企業なんてなくなる思います。それでも原発を輸出していこうとする政府と企業の姿勢には疑問を感じます。


3.これからは自然エネルギー
 原発がだめなら、石油・石炭などの化石燃料という方法もあるが、今後予想される価格高騰のリスクを考えれば、やはり自然エネルギーへのシフトを考えることが妥当な選択肢となる。
 実際に、1990年のドイツを始めとして、デンマーク、スペイン、中国などで自然エネルギーの固定価格買取制度がすでに導入されており、自然エネルギー革命の先頭に立つ風力発電が飛躍的に拡大した。
 世界的に自然エネルギーへの投資額は毎年増加し続けている。2010年には2,430億ドルにもなる。
 企業の株式時価総額2009年5月)を見た場合、11位の中国の企業をはじめとして47位のドイツの企業まで12社もの自然エネルギー専門の企業がランクインしている。この12社は、すべて日本以外の企業。もちろん日本の企業も、1位にトヨタ自動車の約12兆円。5位にホンダ、9位に東京電力、21位に東芝、23位に三菱重工業などがランクインしているものの、自然エネルギー専門の企業ではない。
自然エネルギーが、今後成長著しい分野であることがわかりました。日本の企業も早く取り組んでいかないと、まずいのではないかと思いました。これまで輸出で経済成長してきた日本が、食糧だけでなく、エネルギー技術も輸入する国になってしまうのではないか?と少し危機感を感じました。


4.戦略的エネルギーシフト
 無計画な停電をして電力不足を乗り切るのではなく、戦略的にエネルギーシフトをすべき。
 具体的には、2020年までに、原子力を減らすorゼロにする。自然エネルギーを増やす。「我慢の節電」ではなく、無理のない節電をしていく。
 そして、2050年には節電・省エネによって使用する電力の総量を現在の半分とし、その電力は自然エネルギー100%にする。
 詳しくは、3/23飯田さんが所長を務める環境エネルギー政策研究所から発表されたレポート(P1)を参照ください。
 http://www.isep.or.jp/images/press/ISEP_Strategy110323.pdf
自然エネルギー100%なんて夢のように思えますが、方向性さえ間違えなければ、数十年という時間をかけて実現できそうに思えます。


5.デンマークでは風力発電の反対はほとんど無い
 発電用の風車を立てると、低周波の騒音などで付近の住民が反対する。しかし、オランダでは、事前に「風車を作ってよい場所」「風車を作ってはいけない場所」について住民と徹底的に議論した。
 さらに、地域の住民が風車のオーナーとなることで、風車で作った電気を売って稼ぐ。風車が1回転するたびにお金が入って来ると思えば、風車の回る音も、貯金箱にお金が「チャリンッ」と入ってくるように聞こえる。
→迷惑な施設を、喜ばしい施設に変えてしまうオランダの人たちの発想と取り組みは素晴らしいです。日本人も学ぶべき視点だと思います。


6.質問コーナー
発送電分離については、「大ヤマ」とのこと。一番難しい問題であり、まずは東電が債務超過に陥り、一時国有化する必要あり(JALのように)。そうしておいて他の電力会社も巻き込んでいく方法しかないだろう。
経団連が言うような「脱原発で電力料金が高くなると日本の企業が海外へ出ていかざるを得なくなる」との主張は正しくないとのこと。そもそも企業の費用のうち電気料金の占める割合は、ほんのわずかだから、10%値上げしても影響は少ない。その程度のコストアップを吸収できない企業はもともと競争力がないのだろう。
・日本は大量生産をして数だけ作る経済だ。→もっと高付加価値の経済にしていくべき。
・モンゴルでは、風力と太陽光で、全世界の6倍分の電気を発電する環境がある。
脱原発の運動の方針としては、「二の矢三の矢」といったように、いろんな方法を考えておくべき。「原発の再稼働停止」の一本だけで運動していると、もしそれが実現しなかった時、「もうダメだ」となってしまうから。


●飯田さんのお話を初めて聞きましたが、より具体的で実現可能性の高そうなアイデアばかりでした。より深く理解して、周りの人に広めていきたいと思いましたので、飯田さんの著作などを読んでいく予定です。