愛敬浩二さんの話を聞いた

先日、名古屋大学教授の愛敬浩二さんの話を聞きました。
「核」も「原子力」も英語にすれば、どちらもnuclear。この両者について論じた本講演会では、とても貴重なお話を聞くことができました。多くの論点がありましたので、少し時間をかけて自分なりに整理してみました。


 『「核=原子力」と安保体制』
  2011年10月16日(日)13:00〜16:00
  名古屋市女性会館2F


1.「核」と安保体制

 アメリカにとってアジア・太平洋戦略のためには日本に米軍基地を置くことが必須。基地を置く根拠となる日米安全保障条約を正当化するためにアメリカが核抑止論を使った。
 対日本 → 日本を守るためには、日本に米軍の基地を置くことが必要という「核の傘」の論理。
 対中国 → 1971年の周恩来キッシンジャー会談で、キッシンジャーは「米軍が日本から撤退すれば、日本はきっと核武装するだろう」と言い、周恩来に米軍が日本に駐留することを認めさせた。

・もし日本が「自主防衛」の立場を採り、核武装しようとするならば、アメリカが徹底的に反対するだろう。日本が核兵器を持ってしまえば、在日米軍基地の存在意義がなくなってしまうから。



2.「原子力」と日米関係
(1)「Atoms for Peace」(平和のための原子力)演説
 アイゼンハワー大統領が1953年12月に国連で演説をした。その意味は4つほど考えられる。
a)ソ連が1953年8月に水爆実験に成功したので、ソ連の「軍事的強化」を浮き立たせる狙いがあった。「心理的プロパガンダ」(春名幹夫「世界」2011年6月 岩波
b)西側同盟諸国に核燃料と核エネルギー技術を提供することで、各国を米国政府と資本の支配下に深く取組む田中利幸「世界」2011年8月 岩波 )
c)アメリ核戦略の不可欠構成部分であるウラン濃縮工場の経常運転の確保
d)米国内の商業利用解禁の声とイギリスの野心的な原子力発電計画への対応吉岡斉原子力の社会史」)


(2)日本の原発政策
a)中曽根康弘らが1954年3月に「原子力予算」(2.6憶円)を成立させる。
b)アメリカに対して軍事的には従属していたが、原子力の民事利用においては限定的臣従路線であった。
 たとえば、田中角栄は1973年、アメリカをスルーしてフランスから濃縮ウラン、アラブから石油を調達しようとした(2011.8.16 朝日新聞。→その後、1974年 「電源三法」を成立させ、→1978年、利益誘導による柏崎刈羽原発1号機の着工
 また、1980年代の日本は石油のため、パレスチナ支持であった。

地震大国日本に54基原発があるという現状は、中曽根の責任というよりも、「電源三法」によって地方に利益誘導した田中に責任があるのではないか。



3.福島第一原発と安保体制 −「トモダチ」作戦の意味

(1)アメリカは日米の「友好関係」を再構築したかった
 なぜなら、東日本大震災の前は、普天間基地をめぐって鳩山首相が「迷走」して、沖縄に米軍基地が本当に必要なのか?という点がクロースアップされていたし、ケビン・メア国務省日本部長の「沖縄はゆすりの名人」発言で、震災前日の3/10に更迭されていたから。
・どうしようもない状態であったアメリカにとって、3.11を良い機会であると考え、トモタチのフリをして日本を援助したのではないか?


(2)「友情」によって「代価」を得た
a)米軍再編後の「有事」メカニズムの「試用」水島朝穂「世界」2011年7月 岩波)
 米軍は横田基地に「統合支援部隊」を立ち上げた。これは陸海空軍・海兵隊の4軍が一元的に指揮される初めてのケース。その場に陸上幕僚監部の防衛部長が常駐していた。
b)「海兵隊の存在意義」や「思いやり予算」の要求
・今後、仙台空港を「トモダチ」が使用する可能性も考えられる。そうなれば、民間飛行場を米軍が使用する第1号となる。
・「トモダチ」作戦費用65億円で→「思いやり予算」特別協定1,881億円×5年をゲット(うまい商売だ)


(3)その他の「思惑」
a)人道的理由&政治的・経済的パートナーの救済
b)「原発ルネッサンス」への「北風」の防止
c)在日米軍基地(横田、座間、横須賀など)の保護 ←これは論文などにあまり書かれていないが、米大統領の気持ちになって考えてみれば、これは結構重要な理由だったのではないか?



4.「脱原発」の倫理と論理
(1)原発は道徳的にみてどうか?
 帰結主義的正当化で考える → 日本にこんなものがあるのは不合理だ →「脱原発」へ
 一方、核兵器の場合は、
 義務論的正当化で考える → 絶対悪だ →「反核」へ


(2)「地震列島=日本」にある原発
 地球の表面積わずが0.3%の日本列島に
 全地球の地震約1割が発生
 そこに全世界の原発13%にあたる54基の原子炉がある
 新潟・福井には20基もある
  ↓
 こんなに危険な施設を保有する日本。
 戦争なんてできない日本。
 日本に仮想敵国はいない。ということなのか?


(3)原発の費用と便益
 大事故の場合の処理費用、使用済み核燃料の最終処分、老朽化原発の安全規制コストなど膨大な費の発生が考えられる 。
 また、原発作業員や地域住民の被ばく、民主主義へのマイナス効果(やらせメール事件、事故対策マニュアル黒塗り事件)、地方自治へのマイナス効果(「原発は麻薬」佐藤栄佐久福島県知事)などもある。
 これで、 本当にクリーンで安価なエネルギーなのか?


(4)「脱原発」論
 原則として既存原発は老朽化まで運転継続は認めるが、新たな増設は禁止。十数年またはそれ以上かけて全面廃止へ。吉岡斉原発と日本の未来」岩波ブックレット)


(5)核武装のための「ポテンシャル」の維持か? 日本はプルトニウム46tも持ってる(2009年末現在)
アメリカから軍事的に独立したい→でも、核武装しないと不安→そのために原発で得られた技術やプルトニウムは保持したい→だから脱原発はしたくない→脱原発したとしても原発を海外に輸出することで技術は保持しておきたい。」というのが政府の考えなのか?


5.平和的生存権の可能性

「われらは、全世界がひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」(日本国憲法前文第2段第3文)

 人間の平和的生存を守るべき。
 上記憲法に規定される平和的生存権は「反核」「反安保」「脱原発」の基底にあって、それらを統一する価値である。



<愛敬さんの話を聞いて整理してみて>
・日本はアメリカに軍事的にとことん従属していた(上記1.)が、原発についてはある程度アメリカから独立して政策を行っていた(上記2.)ことがわかります。すなわち核の「軍事利用」は完全従属、原子力の「平和利用」については限定的な従属、というのがこれまでの日本でした。
 しかし、福島第一原発の事故が起きて、「トモダチ」作戦が実施された。これは日本の原子力「平和利用」に関してアメリカが救援してくれた作戦であるが、実際は日本のアメリカに対する軍事的な従属をより深めるものであったように見える(上記3.)。
・安全に運転したとしても、作業員の被ばくはゼロにならないのであれば、そんな非人道的な原発は1日も早く廃止にすべきだと思う。
・ましてや、原発の施設を核兵器製造に転用することは絶対に許されないと考えます。
アメリカから軍事的に独立する方法として、安易に核武装の方向へ行くのではなく、別の方法を考えるべきだと思います。(粘り強い外交交渉によって、東アジアを非核化するべく安全保障政策を進めるなど)
(そもそもアメリカから軍事的に独立する必要なんてない。核兵器なんて作らなくてもアメリカに守ってもらえば良い。と考えている人も多いでしょうが...)