大阪教職員組合委員長 田中康寛さんの話を聞いた

 これまで、大阪の橋下徹知事の政策やキャラクターについて結構好きでした。しかし、6月に府議会で「君が代条条例」の可決をで強行し、8月に「教育基本条例案」の概要など発表したころから、彼の考え(特に教育関係)に少し疑問を抱くようになりました。橋下知事が「これからどんなことをしようとしているか?」について詳しく知りたいと思いました。
 そこで、橋下知事とは対立する立場である、教育の現場の人の話を聞くことにしました。話を聞いたところによると、「教育」が経済界によって壊されようとしていることがわかりました。以下にまとめてみたいと思います。


  橋下・「大阪維新の会」による「教育基本条例案」撤回のたたかい
  2011年10月29日(土) 14:00〜16:15
  名古屋市女性会館2F


1.「教育基本条例案」のねらい(3つ)
(1)戦争できるようにするための愛国心教育の押し付け
 2006年に改正された教育基本法における教育の目標は、「我が国と郷土を愛する・・・態度を養う」という表現であるが、本条例案の基本理念には、「愛国心及び郷土愛に溢れる・・・人材を育てる」と踏み込んだ表現になっている。これは、憲法9条を改正して「戦争する国づくり」と一体となって、「戦争するづくり」を狙ったものといえる。なぜなら本条例案は、子どもたちを「人材」と表現しており、人間としてではなく、人的に有用な材料として扱っているから。
 

(2)エリートの育成
 財界や大企業は、グローバル社会に十分対応できる人材が欲しい。だから子供のうちからエリート教育が必要だと考えている。橋下知事がその要請に応えるために、学校教育に対して介入できるようにしたい。そこで、条例によって「府知事→府教育委員会→校長→教職員」という指揮命令の流れをつくり、知事がやりたい教育、すなわち財界・大企業が求めるエリート育成ができるようにする。
 そして、知事の設定した目標を達成できない教育委員を知事は「罷免」でき、校長は任期付き採用に切り替えて公募し、教職員に対しては「職務命令違反5回、同一職務命令違反3回で分限免職」など厳しい処分・免職の規定を設け、不適格な教職員を一律排除する。
 10/10朝日新聞で、維新の会の坂井良和氏が、以下のように本音を語っている。 

・我々は教育の「複線化」を望む。人の能力差を認め、例えば義務教育を9年から7年にして、残りの2年は勉強でもスポーツでも趣味でもなんでも、好きなものに没頭すればいい。いずれは飛び級も導入したい。
・私は格差を生んでよいと思っている。・・・まずは格差を受け入れてでも、秀でた者を育てる必要がある。

 できない者は切り捨てられてしまう。


(3)選挙の争点そらし
 橋下知事は、大型開発に莫大な税金をつぎこみ、府民のくらし・福祉を切り捨てる政策をしてきた。完全失業率生活保護率、企業倒産件数ともに悪くなっている(07年→09年)。また議会で2度も否決されたにもかかわらわらず、独断でWTCビルを購入し、耐震補強などで最大247億円という税金の無駄遣いをした。このような実績の無さと失敗を覆い隠すために、公務員を攻撃して選挙の争点をそらそうとしている。



2.条例案に対する反応
(1)大阪維新の会の議員
 9/9,9/11 「大阪維新の会府議団内部における意見交換会で、はじめて条例案府議全員に知らされる。維新の会の多くの議員もここで初めて知ることになった。条例案は、維新の会の中でも一部の人たちによって作られたようだ。

(2)大阪府教育委員会
 9/16 会議で5人の教育委員全員が「ものすごく乱暴」などと批判し、反対を表明。

(3)大阪府総務部
 9/30 もし条例案が可決されたら、大阪府はその内容を執行しなければならなくなる。あまりにも法律に基づいていない条例を執行して、のちに訴訟を提起されたらたいへんなことになる。そこで、府総務部は法律上の問題点などを指摘した計687項目の質問書を大阪維新の会府議団へ提出した。

(4)日本ペンクラブ
 9/26 浅田次郎さんが会長を務める日本ペンクラプは、条例案に反対する声明を出した。知事の教育目標の実現のために相応しくない教職員をほぼ機械的に排除てきる点につき、「まるで工場の品質管理」だと批判。



3.教育現場のいまはどうなっているか?
(1)私立高校 
 橋下知事は、私学助成金を削減してきたため、経営の苦しくなった私立高校は定員を増やした。教室が足りなくなり、自転車置き場にプレハブを建てたり、受験者が増えたので、教室に入りきらない人は体育館で入学試験を受けた。私立と公立を併願して公立に落ちた人は私立へ行く「併願戻り」が増えた。

(2)公立高校
 (1)のように私立高校の生徒が増えたので、公立高校の定員割れが増えた。このような状況の下で、本条例案は、定員割れした府立高校を統廃合できるように規定している。

(3)現場の教職員の数
 教職員の年齢構成は、ワイングラス型。すなわち50代や若い人たちが多い。大阪府の教職員5万人のうち2.5万人は10年以内に定年退職となるので、新規採用で補充していかなければならない。しかし、2010年の大阪全体で教員採用は6,846人必要であったが、実際には2,636人しか採用されなかった。足りない分は、講師で補充している。しかし、その講師さえ、もう登録がない状態になっている。「授業に先生がいない」異常な状況となり2009年度には36市町村で381の穴が空いた。講師もいないので、定年退職した元教職員が授業をするケースもある。(中には70歳代、80歳代もいる)

(4)校長先生
 校長は、これまでの政策で年収200万円、退職金500万円がカットされてきた。その上、本条例案では、任期制や仕事内容への介入まで入っている。これはたまらないということで管理職の校長にも怒りがある。校長にも大きな影響を及ぼすおそれがある本条例案。教職員組合の作ったチラシをもらって読むなど関心が高い。


4.では、平松氏が大阪市長に当選すればいいのか?
 橋本知事は「大阪市をつぶして道州制をめざす」、平松市長が「大阪市を大きくして道州制をめざす」のであり、道州制を実現したい関西経済界にとっては、どちらが勝ってもかまわないようです。
 府の「職員基本条例案」に対抗して、平松大阪市長は同様の内容である「職員倫理条例案」を強行して、橋本知事と同じようなことをしている。
 マスコミは、「独裁の橋下か、温和な平松か」とまやかしの争点に府民を導こうとしているが、実際のところ、府民の首をぎゅうーっと一気に絞めるのか、ゆっくりとじわじわと絞めるのかの違いがあるだけである。首を絞める点に違いはないとのこと。
 


<田中さんの話を聞いてまとめてみた感想>
●田中さんは教職員の組合からの立場で話されました。これも一つの意見でありますが、権力側の意見でなく、より府民に近い意見ではないかと思いました。
 橋下氏や大阪維新の会は、新たな条例を制定して、今の教育をこわして競争原理を導入して、不適格な教員を排除し、エリートを育成し、そうでない子どもは切り捨てようとしています。こうした手法は少しやりすぎのような気がして賛成できないです。
 確かに、やる気のない先生が担任になってしまった児童・生徒はかわいそうだし、能力のある子どもに、より能力を伸ばす環境を提供することは大切だと思います。
 しかし、「教育」というを扱う分野に「市場経済」のような競争原理はふさわしくないのではないか。エリート育成をするなら、同時に能力の低い子どもに対する育成も考えるべきです。「教育」の分野は、すべて競争だとか効率性で割り切れるものでないと思います。

●また、新聞・テレビなどのマスコミが報道しないこともたくさんあることを再認識しました。マスコミだけでなく、あらゆる方面から情報を入手した上で、物事の是非を判断することが大切だと感じました。